2010年07月19日

追悼・梅棹忠夫先生

文化人類学者、生態学者、民族学者、日本語のローマ字論者(ローマ字化推進論者)で、社団法人日本ローマ字会会長、エスペラント運動家(エスペランティスト)、世界エスペラント協会の名誉委員……などなど、肩書きはたくさんある。

わたし的には「知的生産の技術」の著者、これに尽きる。というか、それ以外の活動についてあまり知らない。この本自体、ローマ字化推進の萌芽が見て取れる内容だが、それについては機会があったらいずれまた。


1969年、すなわち、私が生まれた年に発刊されたこの「知的生産の技術」。高校1年生の時に(たしか)現代社会の授業で推薦されて読んだ。

その時の衝撃と言ったら、自分の人生の中でのターニングポイントであったといえるぐらいの出来事だった。

現代風に言えば(情報科の立場から言えば)、


  • 記録とはデータである

  • それは規格化をして(フォーマットを整え)

  • 正規化(的な)ことをして初めて意味がある



ということを、生まれて初めて教えてくれたものだった。

私が、電子工作をしたり、プログラミングを始めたのは小学生の頃。まぁその分野としては少し早熟気味だったかもしれない。しかし、この時は、ただ単に「コンピュータ」を学んだに過ぎない。

しかし、この本を読み、「情報」の取り扱い方を学んだ。ノート一つ取る際にも、未来の自分という他人に向かってのメッセージとして、記録しなければならないことを知った。

時は過ぎ、高校教師になった。理科の教員として。相変わらずパソコンをいじるのは好きだった。そんな中で、新しく「情報」という教科が生まれることを知り、自分が本当にやりたいことは「理科」ではなく「情報」だったのではないかと気づき、喜び勇んで免許取得の講習会を受けた。

講習会は多岐にわたった。それは専門教科「情報」の免許も一緒に取ることになったから。それはまだいい。「情報」が余りに「コンピュータ」に偏っている気がした。

質問をした。

「情報科」とは「情報」なんですか、「コンピュータ」なんですか。


答えは曖昧だったが、「どちらかというとコンピュータ」というイメージを受けた。

講習を受けた帰り道、お茶の水で買った書物が、脳内ネットワークを論じたものと、当時そろそろ実用的に使われ始めた Web の HTML の元になっている SGML の解説書(おそらく大学の教科書)だった。しかし、どちらも難しくて読了できなかった。

今思うと、認知心理学などを学びたかったのだろう。コンピュータに入る前に、人間の頭の中でどう認識されているのかを知る必要がある、そして、Webを始めとする人間の知の繋がりの仕組みや理論を知りたい、そういう思いだった。当時はそういった学問の存在がわからなかった。

情報科の教員として生徒に教え始めた。あまりに幅のある生徒にたじろいだこと、TTで一緒に組む先生の認識に合わせる必要があったことから、「情報」の授業は「パソコン教室」になった。違う違うと思いながら。

情報科の教員になって5年目の時。学校も移り、TTをする相手も変わり、その相手から、「知的生産の技術」の話になった。この本に「情報科」が出来ることが予言されているよ、と。

驚いた。本当に驚いた。慌てて本書をめくると後書きに次のようにある。

『ここにあげたさまざまな知的生産技術の教育は、おこなわれるとしたら、どういう教科でおこなわれるのであろうか。国語科の範囲ではあるまい。社会科でもなく、もちろん家庭科でもない。わたしは、やがては「情報科」というような科目をつくって、総合的・集中的な教育をほどこすようになるのでないかとかんがえている。』

なんと、意識していなかった、自分のアイデンティティがここにあったのだ。

そう、パソコンのことを教えたかったのではなく、「人間の中身」を教えたかった。自分は何を見て・聞いて、それをどう感じるのか。それをどう咀嚼するのか。そしてそれをどう他人に伝えるのか。つまり、情報の収集・編集・加工・発信という、まさに情報活用能力+認知心理学、それがあってはじめて、コンピュータなどのを使う上での「情報学」が生きてくる。それを教えたかったのだ。

子供の頃のコンピュータ好き、高校生の頃に本書から受けた衝撃、それが熟して「情報科教員」という今に至っていたのだ。

この「知的生産の技術」は、私にとって今の自分がある特別な一書なのである。

先日お亡くなりになった著者の梅棹忠夫先生には謹んで哀悼の意を表したい。そして、尽くせぬ感謝を送りたい。
posted by n_shimizu at 02:42| Comment(0) | TrackBack(1) | 日記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/39703621

この記事へのトラックバック

温故知新 − 知的生産の技術
Excerpt: 【ベクトル:かなり古典】 知的生産の技術価格:798円(税込、送料別) 40年以
Weblog: 情報教育と数学教育とゲームの不定期日記
Tracked: 2010-08-29 21:58